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『トナカイくんとサンタちゃん ~クリスマスの夢を追いかけて~』振り返りレポ〜1つの舞台を創ること〜

 (※編集者多忙のため掲載が遅れましたが、本記事は4月初頭に入稿されました。執筆者とお読みくださる皆様におかれましては、入稿より掲載までに2ヶ月ほど遅延してしまったことをお詫び申し上げます。)


 はじめまして‼

 学生劇団「いと」〜Italento二年生になろうとしているにも関わらず未だに役職迷走中の阪井翔大です!

 今回は、なんの因果か僕がディレクターを務めることになった冬公演『トナカイくんとサンタちゃん~クリスマスの夢を追いかけて~』に関して報告させていただきます。



公演準備の振り返り

 当公演は劇団の旗揚げ公演であった『Student Act』の進行の裏で始動したプロジェクトでした。7月にはあらすじを話し合い、夏休みを使って作業に入ると11月上旬になんとか脚本を完成できました。


 その脚本の過程では、セリフ一つにしても伝わりやすく、当劇団の伝えたい思いが伝わるような言葉を選ぼうとみんなで吟味しました。いろいろなことを伝えたい一方で、限られた時間・言葉の中で一つ一つ選んでいかなくてはいけません。何とかある程度形になってきてからも、みんなのこの公演を良くしようと努力する思いが強いあまりに対立も起こってしまいました。そういった背景もあり脚本が固まったのは公演本番の二か月前でした。



 さて、そんな中、僕個人は10月末の会議で本公演のディレクターとして任命され右往左往していました。ディレクターになってすぐ脚本が完成し、とりあえずスケジュールを作って、急ピッチで読み合わせ・シーン練を始めました。稽古回数が限られる中演出を担当してくれた仲間(花田和果)は、毎回の稽古に間に合うようシーンのイメージ等を持てるよう準備をしてくれました。僕は、この時の仲間の頑張りに本当に励まされました。誰かが頑張っている姿を見て、もっと自分も頑張らなくてはいけない、頑張ろうと思えました。



 演出などの裏方や演者等の協力のおかげで稽古はスケジュール通り進行していきました。しかし、新型コロナウイルスの蔓延に加え、季節の変わり目というのもあり、本番に近づくにつれそれぞれの負担が大きくなって体調不良になってしまう劇団員も出てきました。僕自身も結果的には陰性でしたが、一度少し体調を崩したので、やるせない気持ちや不安に襲われ、焦りを募らせることもありました。あの時の悔しさは今でも忘れられません。

 その後も、大道具・小道具や機材が足りないかもしれない、衣装が間に合わないかもしれない、照明のイメージができない、*ゲネ前日には大雪で機材等運べないかもしれない、など挙げたらきりがないほどピンチがありました。それでも僕たちは、どんな形であれ、絶対に公演を実現しなくてはいけない、成功させたい、という思いで、一つ一つを乗り越え、何とか本番を迎えることができました。

(*ゲネ:劇場に入り、本番同様に音響照明や衣装がある状態で通す練習を指すゲネプロのこと。)

 本番当日、「僕たちはこの舞台を創るために今まで頑張ってきたんだな」と、その時はじめて、頑張ってきた日々の意味を実感することができました。いろいろ失敗も反省もあるけれど、僕はあの舞台が本当に好きだなあと思います。疲れて幻覚を見ていたのかもしれませんが、本当にあの舞台はキラキラしているように感じられました。





僕の思う舞台・演劇の良さ

 ここで少し僕の話をします。自分は舞台芸術を通して、おやこの交流・成長を目指す市民団体である「日進・東郷おやこ劇場」に属しています。自らが舞台に関わる経験こそなかったものの、演劇自体には観客として前から親しみを持っており、観劇することは元々大好きでした。


 そんな僕ですが、以前「どうしてこんなに非効率的な『演劇』が存在し続けるんだろう?」と考えたことがありました。その当時、僕はドラマや映画と比較して考えたのですが、あまりに「演劇」ってのが面倒で手間のかかることだと思ったんです。

ターゲットは限定され、上演を繰り返すとしてもドラマとかよりお金も時間もかかる。基本一発勝負で撮り直しも休憩もできない。その場で舞台セットを短時間のうちに変えなきゃいけないから大掛かりなこともあまり出来ない。そのためお客さんは、想像力を使わなきゃいけない。また時間も場所も限定的で、途中でお腹が空いたからといって豚骨の匂いきつめの博多ラーメンを食べながら視聴することはできない。ドラマだったらできるのに。いや、ホント不便です笑笑。

 では、そんなに不便でも完全に淘汰されることなく舞台芸術が存在するのは何ででしょう? いろいろあると思いますが、僕は舞台芸術が登場人物の人格も観客も劇団員みんなも巻き込んで、ある種一つの空間を創り出すからだと思います。演者が立つステージだけでなく客席も合わせて舞台であり、あたり前のことかもしれませんが、舞台は演者だけでは成り立たないのです。


 今回僕はサンタ役として舞台に立ち、実際にお客さんの存在を強く感じました。劇中お客さんを凝視することはありませんが、それでもお客さんの反応は伝わります。僕がステージにすぐ、「サンタさんだ!」って言ってくれる子もいれば僕になかなか気づかない子もいる。ちょっとしたコミュニケーションをお客さんと取っているような感覚です。あの時の演技はあの時にしか生まれないと思います。

これが映画やドラマなどの動画と大きく違う事なんじゃないかなと思います。観客は、カメラのアングルにとらわれず各自の視点で舞台上の全てを観察できます。限定的だからこそ、よりパーソナルな楽しみ方ができる。同じ劇を観ているのに人によって観ているところが全く違うことだってあるのが舞台なんです。画面を見ているのではない、演者を観ている。お客さんを、演者らを、それぞれが生身の人間を観うることは結構大切なことなんだと今回改めて気づきました。立場の違う人たちが、同じ空間の中で、共存し合いながら影響し合いながらその場に存在する、それが演劇の良さだと思います。




僕は本公演で「舞台を創る」ことの大変さと楽しさを学びました。

 さあ、こんな風に演劇の良さを語ってますけど、演劇の良さが何なのかなんか正直どうでもいいんです笑笑。理由は別に何だっていいし、なくたっていいし、言語化できなくたっていい。とにかく演劇って良いんです、最高なんです!!その気持ちを大切にしたいと思っています。その思いが少しでも伝えるために一応「理由」っぽいのをつくってはいるんですが。


 僕は、ミュージカルはおろか演劇経験もない中この劇団に入団しました。劇に関して多くの知識がある訳ではありませんでしたが、今回の公演を通して、こんな風に一つの舞台を創る素晴らしさを知ることができました。劇30分、ワークショップ30分。合わせてたった1時間のプログラムではありますが、本番までの日々はとても大変なもので、当劇団員だけでなく多くの人の尽力があって、何とか、あの1時間を創り上げることができました。劇団員の中には、忙しくて満足に眠ることができない人もいました。この公演に対する思いがそれぞれあるからこそ、時には対立も起こりました。少々大袈裟ですが、そんなこともあった末にあの舞台で小さな空間をお客さん含め一緒に共有できたことは、それは大変光栄なことだったなあと思っています。

 舞台は「生もの」、だから、たとえセリフを間違えても赤ちゃんが大声で泣くことがあったとしても、何度も撮り直しができる訳ではない。その時、その瞬間に価値が凝縮され、観客も演者も裏方もありとあらゆるものを巻き込んで、一つの舞台を創る。それが本当に本当に美しいことだと思いました。

 この冬公演にあたって、本当に舞台って素敵なものなんだって思いました。そろそろくどいって思うかもしれませんが、何度だって言います。舞台って本当にすごいもので、本気で世界を変えられると思っています。自分たち劇団員を含め本公演に関わった全ての人が、あの空間を共有し、ちょっとした何かしらのきっかけを持ってくれたら良いなあと思っています。そのきっかけが少しずつ少しずつ世界を変えていく、そう信じています。





 最後になりますがこのような機会を設けてくださった「いとしまこども食堂 ほっこり」様、

 何より寒い中足を運んでくださった皆様、その他本公演に協力してくださった全ての方々に

 心から感謝を申し上げます。本当にありがとうございました。





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