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『ロボット・イン・ザ・ガーデン』観劇レポ

※追記 2023年1月12日

本記事は劇団事務に掲載を委託されておりましたが、掲載そのものを失念しておりました。謹んで謝罪申し上げます。時系列は執筆された2022年11月当時のものとしてお読みください。


秋も深まり、冬の足音さえ感じるこの頃、と言うか、立冬しました。皆さまいかがお過ごしでしょうか。優しい秋はどこへやら、今年は夏と冬が交互に来る自律神経キラーと化してしまいましたね。

さて秋と言えば、○○の秋。様々なジャンルに取り組む劇団員に、私も負けじと観劇をしてまいりました。その名も、


『ロボット・イン・ザ・ガーデン』(福岡公演 2022/10/4~10/6)



イギリスの作家デボラ・インストール氏の小説「ロボット・イン・ザ・ガーデン」を原作に、劇団四季がミュージカル化した作品です。両親を亡くし、心に傷を抱える青年「ベン」と、壊れかけのロボット「タング」が、世界中を旅しながら心を通わせ成長していく……。全編通したレポを書いていたところ、増えすぎた字数に苦言を呈されたため、泣く泣く『好きなシーンTOP 5』に変更してお送りします。心が荒んだ、こじらせ大学生による、主観とオタク的思考にまみれた観劇レポ、どうぞお楽しみください。


※以下、物語の核心に触れる場合がございます。ネタバレを好まない方はブラウザバックをお願いいたします。




第五位『タングの動作』

※最初からシーンじゃないというツッコミはなしでお願いします。

客席に入ると、既にステージの真ん中にちょこんとタングが!哀愁を漂うその姿にむずむずしながら、開演を待ちます。ベルが鳴り響き、両袖からふたりの演者の方がゆっくりと舞台上へ向かいます。ふたりがタングに触れると、一瞬で命が宿り、物語が動き始めました。何が素晴らしいって、担当役者さんが息ぴったりどころではなく、もはや一心同体。ひとつの生命としてタングに命を吹き込んでいるのです。観劇前は、どうしても後ろの役者さんが気になってしまうのではないか、などと考えていたのですが、全くの杞憂。舞台にいるのは「タング」でした。人が操っていることなど忘れてしまうほど、不器用でいじらしいロボットの姿。終盤は役者さんの存在をすっかり忘れてしまい、カーテンコールになってハッとしました。そうやん……人おるやん……。全身全霊でタングを描き切ったお二人に全力拍手を送り、会場を後にしました。




第四位『夜明けのサンフランシスコ』

物語の序盤、ベンは、壊れかけのタングを直すために、少ない手がかりを元に世界中を旅することにしました。

最初に向かったのはサンフランシスコ。街の小さなホテルで、ひとりの女が歌っています。「サンフランシスコ AM4:00」。夜に愛し合っても、朝には出ていく「あなた」を想いながら、夜よ、まだ明けないで、とうたう歌です。私はこのナンバーがかなり好きなのですが、少し解釈に揺れております。歌う彼女は人間なのか、アンドロイドなのか、そこでこの曲の捉え方が全く異なるように感じるのです。彼女が歌うホテルがまた……その……いかがわしいホテルでございまして。その後の展開で判明するのですが、性行為が本業のアンドロイドなるものが存在し、それらを買い付けてホテルで楽しむようです。とんでもなくsexyなダンスで、人間を誘うアンドロイドたち。後ほどまた語りますが、そのアンドロイドたちも夜が明ければ、壊れてしまえば、捨てられます。まやかしの愛に生きるアンドロイドたち、さてさて、ここで解釈が分岐します。

①彼女が人間だった場合

 ホテルの従業員で、普段からここで歌っている?夜は仕事がなく、傍にいない恋人を想いながら歌っている。

②アンドロイドだった場合

 「客」がいないアンドロイド。買われた夜には愛されるが、それも朝が来れば去ってしまう。この街は朝が綺麗、恋人たちを照らすから、と言いながら、夜よまだ明けないで、と歌う。それは、恋人たちの中に自分は入ることができないから。手が届かないものは美しく感じてしまう精神。店主の婦人に邪険に扱われていたのも、客が取れなかったとすれば納得もできる。

 私の薄い想像力をもってしても、アンドロイドだった場合の方が、圧倒的に世界が広がる。決めました、アンドロイド説を推していきます。そして、ここの解釈を固定するために、この原稿が上がったら原作を買いに行きます。

憧れと眷恋と、一滴の虚しさが揺れる、美しいナンバーでした。



第三位『廃棄されるアンドロイド』

 さて、まだサンフランシスコのいかがわしい通りから抜け出せません。ホテルの店主に捨てられたアンドロイドが、タングを掴んで離そうとしません。彼は客に乱暴に扱われたがために壊れてしまい(確かそう)、そのまま廃棄処分となっていました。タングの腕を握り「あなたを愛しています」「あなたを愛しています」と何度も語り掛けるシーンがほんとにもう……ただただ辛い。彼らにとって「愛」は唯一の存在意義だったわけで、壊れてもなおその言葉でまやかしの「愛」に縋ろうとする姿が天才的に残酷で……。心の中で「作者ァ!!!」と叫んでいました。彼は結局、なんとか振り切ろうとしたベンが与えた衝撃が致命的となり、そのまま沈黙。ないんか、人の心。



第二位『Free Free』

ベンに愛想をつかして家を出て行った妻のエイミーは、ベンの姉で彼女の親友・ブライオニーのもとに転がり込みます。そこでブライオニーがエイミーを励ましつつ、ふたりで未来への希望を歌うナンバーです。この曲は歌もダンスも難易度が異常です。リズム音痴殺しの早い連符と楽譜がウェーブする難関音階、鬼のような音の跳躍。ダンスは詳しくないけれど、それでもわかるくらい難しいことをやっていて、それを完璧にこなしてしまうふたりが本当にすごい。難しいはずのパフォーマンスをさらりとこなしてしまう。エイミー、ブライオニーともに主役級で中堅~ベテランの俳優さんが演じており、ステージに一瞬で花が咲くような表現力は本物……。そして溢れんばかりの光に振り切った楽曲。素敵だなぁと思いつつそれが自分にも重なって、まるでどこにも行ける、自分の可能性は無限だと、自然に思ってしまう最高のパフォーマンスでした。

元気になりたい時はこのナンバーを聞きましょう!いいですね!!

この世界は上手くいかないことがたくさんあるけれど、未来はまだ白いのです。




第一位『地上の星雲』

 二幕後半、東京でのシーン。曲、演出、お芝居すべてが神だったシーン。最初のソロが、名もなき誰かなのが最高、あまりに最高。小さな光が空へ向かい、会場に広がった瞬間ぼろ泣き。ひとりひとりが、命という奇跡を紡ぎ、寄り添い合う。命の素晴らしさを大切にする、とても劇団四季らしい、あたたかいナンバーでした。

これはその場にいてこそ感じられる「なにか」があるので、もう何も言うことはありません。全人類劇場に足を運んで、体験していただけることを願っております。




 さて、ここまで『好きなシーンTOP 5』をお送りしました。正直5つなんかじゃ足りないほど素晴らしいシーンがたくさんある作品でした。世界観を完璧に表現した美しい楽曲、伝統を踏襲しつつも様々なジャンルを取り入れた個性的な振り付け、すべてを活かす演出、どれをとっても最高。全編通して、ベンという青年の成長、そして心がないはずのロボット、タングの成長が見事に描かれていました。表現する俳優さんのお芝居も素晴らしく、

 「心」とは、「命」とはいったい何なのか、その考察までしたかったですが、語りすぎたのでここまで。

最後まで読んでくださった奇特なあなたへ、福岡ドーム一杯分の感謝を送ります。



 皆さん!!『ロボット・イン・ザ・ガーデン』の収録映像がされるそうですよ!!!

 3000円(税込)で1週間視聴できます!もう一度観たい方、このレポを読んで興味を持ってくださった方、ぜひこの機会にご覧になってはいかがでしょうか!


配信期間は2022年11月22日正午から、2023年1月15日までとなっております!


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